札幌地方裁判所 昭和48年(行ク)5号 決定
主文
本件申立てを却下する。
申立費用は申立人らの負担とする。
理由
(当事者の主張)
申立人らの申立ての趣旨および理由は、別紙申立書、反論書、申立補充書、申立再補充書および申立補充書(第三および第四)の各要旨記載のとおりであり、被申立人の意見は、別紙意見書、補充意見書(一)ないし(四)の各要旨記載のとおりであり、参加人の意見は、別紙意見書および補充意見書の各要旨記載のとおりである。
(当裁判所の判断)
一申立人適格について
1行政処分の取消しの訴え(取消訴訟)を提起することができるのは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限られる(行政事件訴訟法第九条)が、ここにいう処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは、行政処分によつて権利または法律上保護に価する利益を侵害される者をいうのであつて、いやしくもそのような侵害を生ずる場合であれば、その者が処分の相手方であると第三者であるとを問うことなく、これに取消訴訟の原告適格が認められるのである。本件においては、申立人らは、本件処分の相手方ではないけれども、次に説示するように、本件処分によりその権利を侵害されるものということができるから、申立人らは、本件処分の取消しを求める本案訴訟について原告適格を有し、したがつて、その執行停止申立てについても申立人適格を有するものである。
2本件各疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。
(一) 本件処分は、参加人の申請に基づき、被申立人が、昭和四八年六月二五日、公有水面埋立法第二条によりなした、伊達市長和町三一五番地の二、三一六番地の一および同番地の二ならびに国有鉄道用地の地先海面3万3,795.90平方メートル(以下、右海面を本件埋立地という。)につき、参加人が同市内に建設を予定している火力発電所(以下、伊達火力発電所という。)新設工事に伴う取水口、取水路、物揚場、荷置場等の施設用地造成のため埋立を行なうことを免許する旨の処分であつて、右処分には、埋立地を免許を受けた目的以外の目的に使用しようとするときは、あらかじめ、知事の許可を受けなければならない旨および埋立に関する工事は、免許の日から三〇日以内に着手し、昭和五〇年一二月三一日までにしゆん功するものとする旨の付款が付されていること、参加人が右処分に基づいて実施する取水口外かく施設建設工事は、本件埋立地の西側に位置するエントモ岬の東南側に沿う海面一帯に及び、その範囲は約一二万平方メートルである(以下、この海面を本件工事海面という。)こと、
(二) 別紙当事者目録申立人(一)記載の申立人ら(以下、伊達申立人らという。)は、伊達市内(有珠地区を除く)に居住する漁民を構成員とする伊達漁業協同組合(以下、伊達漁協という。)の正組合員であつて、同組合が本件工事海面を含む伊達市内の有珠地区を除く地域の沿岸沿いの海域に有する第一種区画漁業権(海区第四八号)および右海域の外側(沖合側)の海域に有する第一ないし第三種共同漁業権(海共第一三五号)に基づき、同組合の定める漁業権行使規則により右各海域で現実に漁業を営んでいること、
(三) 他方、別紙当事者目録申立人(二)記載の申立人ら(以下、有珠申立人らという。)は、伊達市内有珠地区に居住する漁民を構成員とする有珠漁業協同組合(以下、有珠漁協という。)の正組合員であつて、同組合が有珠地区の沿岸沿いの海域に有する第一種区画漁業権(海区第四七号)および右海域の外側(沖合側)の海域に有する第一ないし第三種共同漁業権(海共第一三四号)に基づき、同組合の定める漁業権行使規則により右各海域で現実に漁業を営んでいること、
(四) 右海区第四七号が存する海域と海区第四八号が存する海域および右海共第一三四号が存する海域と海共第一三五号が存する海域はそれぞれ相接しており、その境界線は、エントモ岬の先端からほぼ西南方向(噴火湾の中心方向)に向かう直線であること、したがつて、右海区第四七号および海共第一三四号が存する海域のうち右境界線付近の海域は、本件工事海面から至近距離にある(本件工事海面内にある取水口設置予定地点からの最短距離はわずか四〇〇メートルあまりである。)こと、
(五) 本件処分に基づいて参加人が行なう埋立工事(以下、本件埋立工事という。)においては、後記認定のように、本件工事海面内において投石およびしゆんせつとこれによつて採取された土砂の沈澱池への注入が行なわれるが、これらの作業を実施すると本件工事海面内においてかなり海水汚濁を生ずること、
以上のとおり一応認められる。
3ところで、漁業権は、一定の水面において排他的に一定の漁業を営むことができる権利であつて、都道府県知事の免許によつて発生し(漁業法第一〇条)、物権たる性質を有するものである(同法第二三条第一項)。そして、漁業権は、漁業協同組合または漁業協同組合連合会に帰属し、その組合員たる漁民は、組合または組合連合会の定める漁業権行使規則に従つて漁業を営む権利を有するにすぎない(同第八条第一項第二項)。したがつて、漁業権自体は、組合員たる個々の漁民に帰属するものではないが、組合員たる漁民が有する漁業を営む権利は、いわば漁業権の行使の面に着目した権利であつて、それ自体法律上保護に価する内容を有し、単なる事実上の利益ないし反射的利益とは区別されなければならない。しかして、さきに認定した本件埋立工事の規模、態様および本件工事海面と申立人らが漁業を営む各海域との位置関係からみれば、本件埋立工事によつて本件工事海面に汚濁を生じた場合、この汚濁が右海面の範囲内に止まらず、拡散して周辺の海域の海水までも汚染するおそれがあることは、経験則に照らしこれを否定することができず、その汚染が及ぶ範囲も、本件工事海面に接する前記海区第四八号の海域(伊達申立人らが漁業を営む海域)に止まるものとはにわかに断定できず、本件工事海面と至近距離にある前記海区第四七号の海域(有珠申立人らが漁業を営む海域)にも及ぶおそれが全くないとはいえない。そして、これらの海域に汚染が及んだ場合には、その程度によつては、各海域における申立人らの漁業に影響を及ぼし、漁獲の減少等の被害を生ずるおそれがあるといえるから、結局本件処分によつて、申立人らの前記各漁業を営む権利が侵害されるものというべきである。
4被申立人は、本件処分の効力を争うことができるのは、公有水面埋立法第五条に列記された者および競願者に限定されると主張するが、本件処分により申立人らの権利が侵害されるのである以上、申立人らにこれを争う適格を肯認すべきこと前述のとおりであつて、これを被申立人らの右主張のように限定して解すべき根拠はない。
つぎに、被申立人は、本件処分自体によつては申立人らの権利または利益に何らの影響もなく、また、埋立工事についても、現在の工事技術によれば海水の汚濁を防止することが可能であるから申立人らには申立人適格がないと主張する。なるほど、本件処分は、参加人に対し、公有水面埋立の権利を設定するものであつて、処分自体により申立人らの権利または法律上保護すべき利益につき直接の変動を生じさせるものではない。しかし、行政処分によつて権利の設定を受けた者が、当該処分につき本来予想された方法によりその権利を実現する場合に、これによつて、第三者の権利または法律上保護すべき利益が侵害されるに至るときは、右権利または利益の侵害は、結局当該行政処分によつて生ずる侵害にほかならないというべきであつて、かかる場合には、当該第三者に、右行政処分の効力を争う適格が認められると解するのが相当である。そして、本件埋立工事は、参加人が、本件処分によつて設定を受けた公有水面の埋立に関する権利を本来予想された方法によつて実現するものにほかならないから、右工事によつて申立人らの権利につき前述の如き影響がある以上、本件につきその申立人適格を肯認すべきことは当然である。また、右工事から生ずる汚染については、工事の方法および技術のいかんによつて相当程度軽減できるにしても、現時の技術水準をもつてすれば、本件埋立工事による海水汚濁を本件工事海面以外にはいささかも及ぼすことなく埋立工事全部を実施できるものとは、本件全疎明資料によつても到底認めることができない。
被申立人は、さらに、本件埋立工事完成後における堤防等の諸施設が存在することから生ずる侵害および伊達火力発電所の操業に伴う取水、温排水等による侵害を根拠としても、申立人らに申立人適格を肯定する余地がなく、また、環境権に対する侵害を根拠としてもこれと同様である旨主張するが、前述のように、本件埋立工事自体による侵害に基づいて申立人適格を肯認できるのであるから、右の点については判断のかぎりでない。
二申立人らに回復困難な損害が生ずるかどうかについて
1本件埋立工事による漁業被害について
本件各疎明資料によると以下の事実が一応認められる。すなわち、
(一) 本件処分による埋立の対象となつた公有水面の面積は3万3,795.90平方メートルであるが、参加人の計画によれば、本件埋立工事は、参加人が建設する伊達火力発電所の冷却用水取水のための取水口外かく施設工事の一環であつて、参加人は、右公有水面を含むエントモ岬東南側海岸沿いの海面に、埋立護岸(延長410.0メートルの東護岸および取付護岸とこれらに囲まれる埋立地)、延長109.0メートルの東防波堤、取水口、取水路、物揚場、荷置場ならびに延長165.0メートルの西防波堤の各施設を築造するものであつて、右各施設で囲まれる公有水面の面積は約一二万平方メートルにおよぶこと、
(二) 右取水口外かく施設の建設工事のうち、護岸および防波堤の工事は、まずその基礎部分とするために多量の石材(捨石)を海中に投じて海底より積み上げ、ついで、その上層の堤体傾斜面にコンクリート製の消波ブロックを積み上げ、さらに、天端部分に上部コンクリートを打設するものであるが、右工事は、昭和四八年七月ころ開始され、同年一〇月末ころまでに東護岸および東防波堤工事については、天端部分のコンクリート打ちを除く大部分の工程を終了したこと、
(三) 右捨石工事につき、参加人の計画によれば、海中に投ずべき石材をあらかじめ洗浄するというのであるが、参加人の実施した洗浄の方法は、トラックの荷台に石材を積んだままの状態で上から放水するものであつて、必ずしも万全の方法とはいい難く、右洗石の効果がどの程度挙がつたかは明らかでないが、右捨石工事自体による海底土砂のかく乱およびこれによつて生じた海水汚濁の範囲は比較的小規模のものであつたこと、
(四) 東護岸、取付護岸および取水口設備等の工事が終了した後、これらに囲まれた海面の埋立が行なわれるが、右埋立工事は、取水口外かく施設内であつて、取水口設置予定地付近から東西両防波堤設置予定地の先端付近に至る海域の海底を吸込口にホイールカッターを取付けたポンプしゆんせつ船によつて水深七メートルにしゆんせつし、穿掘吸引した土砂を海水とともに埋立予定地に流送する方法によつて行なわれるものであつて、その際、しゆんせつ船で吸引された土砂は、四つの沈澱池に区画された埋立予定地の第一の沈澱池に排出され、第一の沈澱池から溢れた海水は順次第二ないし第四の沈澱池に送られ、この間に徐々に土砂が沈澱されて最後に第四の沈澱池の上澄みが溢流装置を経て外海へ放出されること、そして、第一の沈澱池の容量が満たされたときは吸引された土砂は第二の沈澱池に排出され、第二の沈澱池も満たされたときは第三の沈澱池に排出され、かくして最後は第四の沈澱池に直接土砂が排出され、これを満たすことによつて埋立を終了するが、この間において、しゆんせつを要する土砂の量が埋立に要する土砂の量を上回るので、沈澱池に堆積した土砂の一部を陸揚げすること、しゆんせつにはいくつかの方法があるが、いずれによつても海底のかく拌を伴うから、これによつて海水に汚濁を生ずることは避けられないのであるが、右のホイールカッターを用いるポンプしゆんせつによるときは、他の方法によるしゆんせつに比べれば海底の土砂のかく乱をある程度緩和することができること、他方、沈澱池からの海水の放出による汚濁のおそれについては、四つの沈澱池を設けたことにより、汚濁水がこれを経由することによつて土砂の沈澱が反覆され、放出される海水の浄化に効果があることは否定できないが、これによつて、外海における漁業に支障をきたさない程度に海水が浄化されるとまでは認めることができず、まして、第一ないし第三の沈澱池の容量が満たされた後に第四の沈澱池にしゆんせつされた土砂が直接排出された場合、そこから放出される上澄みの海水が外海に支障をきたさない程度のものであるとは到底認め難いこと、
(五) 以上の捨石およびしゆんせつ各工事にあたつては、工事の進行状況にあわせて工事施行箇所をとり囲むように海水汚濁の拡散を防止するためのシートが設置され、ことにしゆんせつ工事が行なわれる際には、工事が行なわれる海域全体を外海から遮断するシートのほかに、沈澱池からの放出口をとり囲む小規模のシートをも設置する計画であり、参加人は、この計画に基づき、昭和四八年八月一二日、東護岸および東防波堤工事の一部である前記捨石工事を開始するにあたり、この工事海域をとり囲むシートを設置したうえで右工事を施行したこと、しかし右シートは、同年一〇月二八日、しけのためその相当部分が破損し、汚濁の拡散を防止する機能を失つたので、参加人はその後捨石工事の続行を中止していること、右シートが海水中の浮遊懸濁物を遮断する能力については、シートの材質や設備全体の構造からみても、また、海面の表層および中層の浮遊懸濁物の遮断については相当効果を発揮する旨の実験結果があり、さらに、海上から海面を肉眼で見た場合に海水の濁りがシートであきらかに遮断されていると認められた例もあるので、これらの点から考えても、海面が平穏な時には、表層および中層においてかなりの効果を発揮するものとみられるが、荒天時におけるシートの耐久性については前述した破損の例から考えても問題があり、さらに、シートの底部は、海底に一定の間隔で設置されたコンクリートブロックに長さ約1ないし1.5メートルのワイヤロープを介してつながれているのみであつて、海底とシートの底部との間には間隙があり、ここからの海水の移動に伴う浮遊懸濁物の流動も考えられるので、海底付近の層においては、表層および中層と同程度の遮断効果は期待できないこと、
(六) 前記しゆんせつが行なわれる海域の海底は、大部分が砂質であり、部分的に細かい砂ないし泥とみられる箇所も存在するが、ヘドロの堆積を測させるような状況はないこと、
(七) 本件埋立地付近の海流は、噴火湾全体の大きな潮流としては年間を通じて南東流(時計廻り)が卓越しているとみられ、夏期においてはそれが全体の約八〇パーセントを占める場合もあるが、沖合七〇〇ないし八〇〇メートルより以浅の海域における沿岸流は複雑な様相を呈し、夏期においても北西流(反時計廻り)を生ずる場合が南東流を生ずる場合よりも多いことがあり、また、流れの方向も一様ではなく、わずかの位置の相違によつて流れの方向を異にし、流れが沖から岸へあるいはその逆に向かつている場合もあること、
(八) 有珠申立人らの漁法は、沿岸部においてはノゾキ箱を利用するウニ、ナマコ、アワビ、ホタテ、昆布等の磯突き漁業とホタテ、ノリ、ワカメ、昆布、アワビ、ウニ等の養殖漁業に大別され、海水が濁ると、磯突き漁業においては、視界が狭くなるために操業に支障をきたすし、また、養殖漁業においても、その種付け作業が困難となつたり、貝類および海藻類の成育が不良となるなどの影響を受けること、
以上のとおり疎明される。
以上の各事実によると、本件埋立工事の施行により、洗石、ポンプしゆんせつ、沈澱池の設置等の汚濁防止方法の採用にもかかわらず、本件工事海面内の海水に汚濁を生ずることは避け難く、しかも右汚濁は、海流の影響等による海水の移動により拡散して本件工事海面の外側の海域に及び、その海水を汚染させるおそれがあるのであつて、汚濁防止シートの設置もこの汚濁の拡散を防止するのに必ずしも万全ではないというべきである。そして、本件工事海面外の海域における海水の汚濁が一定限度以上に達した場合には、右海域における申立人らの漁業が被害を受けることが予想されるから、結局本件埋立工事により申立人らの漁業に何らかの影響を及ぼす可能性を否定することができないというほかはない。しかし、前記捨石工事が施行された過程において、同工事によつて生じた海水の汚濁が本件工事海面外の海域にまで拡散して申立人らの漁業に影響を及ぼしたことを疎明するに足りる資料はなく(この点に関し、本件資料中の有珠申立人らの作成による供述書のうちには、昭和四八年秋になつて海中に濁りを生じたため磯突き漁業が困難になつた旨の記載が存するものがあるが、右が本件捨石工事に起因するものかどうかは必ずしも明らかでない。)、また、昭和四九年春以降に予定されているしゆんせつ工事によつても、これによつて生ずる汚濁により本件工事海面外の海域を汚染させる可能性があることは否定できないにしても、その及ぶおそれのある海域は、本件工事海面の面積および工事の方法から考えると必ずしも広範囲なものとは考えられないし、その汚染が、申立人らの営む漁業に対し、将来にわたり漁業を営むこと自体を不可能にするほどの壊滅的な打撃を与えるとか、長期間にわたり大巾な漁獲の減少を招くほどの程度にまで達するおそれがあるとは、全疎明資料によつても認めることができない。しかも、本件処分には、昭和五〇年一二月三一日までに工事を終了すべき旨の付款が付され、参加人の計画によれば、しゆんせつ工事に要する期間は、七か月にすぎないのである。そして、かりに、申立人らが本件埋立工事の影響によりある程度の漁獲の減少を生じ、もつて損害を蒙ることがあつても、右損害は、原則として金銭賠償によつて償うことができる性質の損害であるといわなければならない。これを要するに、本件埋立工事により、申立人らの営む漁業に影響があつても、その程度、影響が及ぶ期間および回復の難易を綜合して考察すれば、未だその影響が回復困難なものというに足りないのである。そうとすれば、結局、本件埋立工事にもとづく海水の汚濁により、申立人らに対し、行政事件訴訟法第二五条第二項にいう回復困難な損害を生ずるものということができない。
なお、申立人らは、前記捨石工事によつて本件埋立地付近に赤潮が発生した旨主張するところ、本件疎明資料によれば、昭和四八年九月に噴火湾内に赤潮が発生したことが認められるが、この赤潮は、本件埋立地付近に局部的に生じたものではなく、噴火湾一帯に大量に発生したものであつて、前記のごとき小規模の捨石工事と右赤潮の発生との間に因果関係があるとは到底認められない。また、しゆんせつ工事によつて海底の栄養塩等が浮上すると、これによつて赤潮が発生するとの見解があることは疎明資料によつて窺われるが、本件における程度のしゆんせつ工事によつても申立人らの漁業に影響を及ぼすほどの赤潮が発生するおそれがあるものと認めるに足りる資料は存在しない。
2本件埋立工事完成後の漁業環境の悪化について
申立人らは、本件取水口外かく施設が完成すると、防波堤等によつて生ずる返し波により漁業が危険にさらされると主張するが、疎明資料によれば、防波堤は、その位置および形状につき、返し波の発生をできるだけ少くするように考案されたものであり、また防波堤の外側の斜面には消波ブロックを二層に積み上げることが計画されていることが窺われるところ、右計画に則した施設が設けられた場合であつても、なお、これによつて申立人らの漁業に危険を及ぼすほどの顕著な返し波が生ずるおそれがあるとの疎明は十分でなく、また、潮流および魚道の変化ならびに海底の砂の移動についても、申立人らの主張する影響を生ずるといえるだけの疎明がない。したがつて、右の点についても、結局申立人らに回復困難な損害を生ずるものということはできない。
3取水および温排水による被害について
伊達火力発電所が完成し、操業が開始されると、本件埋立地の一面に設けられる取水口から冷却用水がとり入れられ、これが温水となつて本件埋立地の東南約一キロメートルの海岸に設けられる排水口から海中に排出されることは本件疎明資料によつてあきらかである。そして、排出される温水は、周辺水域の水温に比べて夏は五度C、冬は七度C高く、その量は毎秒二二立方メートルに達することが予想されているのであるから、この温排水により、排水口の周辺の海域(伊達申立人らが漁業を営む海域)における漁業が影響を受けることはあきらかであり、また排水口からは若干の距離はあつても、取水または温排水により、有珠申立人らが漁業を営む海域にも影響が及ぶおそれがないとはいえない。しかし、本件埋立工事の施行によつて生ずる損害ないしは本件埋立工事により設置される施設の存在自体から生ずる損害については、これを本件処分によつて生ずる直接の損害ということができるが、右の取水または温排水によつて生ずる損害については、これを本件処分によつて生ずる直接の損害ということができず、行政事件訴訟法第二五条第二項にいうところの損害に該当しないと解するのを相当とする。けだし、本件埋立工事が行なわれないかぎり、伊達火力発電所の他の設備が完成しても、取水および排水が行なわれることはないのであるから、この意味では本件処分と右取水および排水とは関連を有するけれども、このような取水、排水の如きは、海面の埋立に通常伴うものではなく、本件処分自体も、参加人に埋立の権限を付与したのみであつて、取水、排水の許否に触れたものではないのであり、かつ、排水による海水の汚濁の防止については、行政庁による規制が別途に講じられるのであつて(一般には、水質汚濁防止法によるが、同法第二三条第二項は、電気事業法第二条第七項に規定する電気工作物からの排出水については、水質汚濁防止法に定める行政取締規定を適用しないこととしているため、これについては電気事業法によることとなり、同法第四一条第三項による工事計画の認可により電気工作物の設置自体について規制がなされるばかりでなく、同法第四八条、第四九条により、その維持についても、電気事業者は、一定の基準に適合させることを義務づけられ、これが遵守されないときは、通産大臣は、電気工作物の使用の一時停止を命じ、またはその使用を制限することができるのである。)、取水または排水による影響については、むしろ、これらの行政庁の処分と密接な関連があるというべきであるから、結局、本件処分は、取水または排水による損害につき、直接の原因をなすものということができないからである。
4本件埋立地の水面が消失することによる損害について
本件疎明資料によれば、本件埋立工事により、伊達申立人らの有する前記漁場のうち本件工事海面を含む約一二万五、〇〇〇平方メートルの海域が漁場としては、永久に消滅することがあきらかである。しかしながら、本件疎明資料によると、右消滅海域の面積は、同申立人らが漁業を営む海共第一三五号の海域の約四〇〇分の一以下、同海区第四八号の海域の約二〇〇分の一以下にすぎず、しかも、右消滅海域は、右海岸の近くにし尿処理場が建設されてその汚水が流入するようになつてからは、よい漁場とはみられなくなり、同申立人らも近年においてはほとんど同海域を漁場としして利用していなかつたことが疎明され、これらの事実から考えると、同申立人らの有する全漁場のうち右消滅海域の漁場が永久に消滅することをもつて、行政事件訴訟法第二五条第二項にいう回復困難な損害を生ずるものということはできない。
なお、申立人らは、右消滅海域が藻場として重要な意味を持つている旨主張するが、右海域の藻場としての価値については疎明が十分でない。
5環境権に対する侵害について
申立人らは、本件埋立工事により、本件埋立地およびその周辺一帯における景観、自然環境等が破壊され、環境権が侵害される旨主張するが、申立人らのいう環境権の内容がいかなるものであるかが既に問題であり、かりにこの点をしばらくおくとしても、右埋立工事が、前述のとおり比較的小規模のものであり、また、本件埋立地付近の海面および海岸一帯は、し尿処理場や工場および鉄道護岸の存在等により、自然環境として噴火湾沿岸の各地方と比較して格段に良好であるとは必ずしもいえないし、しかも、築造される東西の防波堤および埋立地上には、特に景観や自然環境を損なうような構築物の建設が予定されているわけではない(これらは、いずれも疎明資料によつて窺われる。)から、本件埋立工事がもたらす景観や自然環境への影響を目して回復困難な損害ということはできない。また、伊達火力発電所の操業に伴う大気汚染による被害については、さきに温排水による被害について説示したところと同じ理由により(ただし、大気汚染に対する行政庁の規制は大気汚染防止法による。)、本件処分によつて生ずる直接の損害ということができない。
6まとめ
以上の次第であるから、いずれの点からみても、本件処分により、申立人らに対し、回復困難な損害を生ずるものということはできない。
三以上によると、本件申立てはその余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを却下し、申立費用について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり決定する。
(橘勝治 稲守孝夫 大和陽一郎)
申立人らの執行停止決定申立書の要旨
申立の趣旨
一、被申立人が昭和四八年六月二五日北海道電力株式会社に対し港湾第二九号指令をもつてした伊達市長和町三一五番地の二、三一六番地の一および三一六番地の二ならびに国有鉄道用地の地先海面33,795.90平方メートルの公有水面埋立免許処分の効力は、本案判決が確定するまでこれを停止する。
二、申立費用は被申立人の負担とする。
との裁判を求める。
申立の理由
第一、被申立人は昭和四八年六月二五日、北海道電力株式会社に対し、伊達火力発電所新設工事に伴う取水口、取水路、物揚場、荷置場等の施設用地造成のため申立の趣旨一項の公有水面について、埋立免許を与え、同日から三〇日以内に埋立工事に着手すべきことを命じた。
第二、申立人目録(一)の申立人らは、伊達漁業協同組合の正組合員であり同目録(二)の申立人らは有珠漁業協同組合の正組合員である。
伊達漁業協同組合は、申立の趣旨一項の本件公有水面を含む海域に第一種区画漁業権(海区第四八号)および第一ないし第三種共同漁業権(海共第一三五号)を有する。
有珠漁業協同組合は、伊達漁業協同組合の漁場と隣接した海域に第一種区画漁業権(海区第四七号)および第一ないし第三種共同漁業権(海共第一三四号)を有する。
申立人らはそれぞれ所属漁業協同組合の正組合員として、所属漁業協同組合の漁業権行使規則により、前記各海域で漁業を営む権利を有する。
第三、本件埋立免許の違法性。
一、本件埋立免許は、本件公有水面に権利を有する者がないことを前提としているが、伊達漁業協同組合は、本件公有水面に共同漁業権を有する。
1 被申立人は、北海道電力株式会社と伊達漁協との間に昭和四七年六月三〇日に締結された漁業権一部消滅とその補償に関する協定により、同漁協の漁業権は一部消滅したと認定しているものの如くであるが、右漁業権消滅に関する協定は無効である。すなわち
2 伊達漁協では、昭和四七年五月三一日に開催された総会で、漁業権放棄を賛成一〇三票、反対四三票で議決したが、この議決は次の理由で当然無効である。
(一) 水産業協同組合法五〇条は、漁業協同組合が漁業権を放棄するには、総会で総組合員の半数以上が出席し、その議決権の三分の二以上の多数による議決を必要とする旨定める。しかし、漁業を営む権利は、漁民にとつては生存の基礎をなす生活権的財産権である。前記法律の規定は多数者により少数者の生活権を奪う結果となることを認める点で、憲法二五条、二九条、三一条に違反し、無効である。
(二) 仮にそうでないとしても、漁業協同組合がその有する漁業権(またはその一部)を放棄するには、水産業協同組合法五〇条による総会の特別決議だけでは足りず、漁業権行使規則の変更の場合と同様特定区画漁業権または第一種共同漁業を営む組合員のうち地元地区または関係地区内に住所を有するもの(本件の場合は伊達漁業協同組合の組合員全員)の三分の二以上の書面による事前の同意が必要であると解すべきである(漁業法八条三項、五項)。しかし、右伊達漁協の総会決議の場合にはこの書面による同意がないから、本件漁業権一部放棄の決議は無効である。
(三) 右伊達漁協の漁業権一部放棄の決議は、錯誤に基く意思表示であるから、無効である。北海道電力株式会社伊達火力発電所建設に伴う漁業影響については、昭和四六年七月、日本水産資源保護協会が伊達市から調査を依頼され、同年一二月「中間報告」を発表した。中間報告は①温排水の拡散範囲について、七度温度の高い温排水が毎秒二二立方メートル放出された場合、海水より一度温度が高くなる表層水(一メートルの厚さ)は半径七八〇メートルの半円形の範囲をこえて分布することはなく、潮流による移動を考慮しても、放水口から海岸線の左右に一、五〇〇メートルの距離をこえることはない旨、②冷却水取水によるホタテガイ浮遊幼生の減耗は4.6パーセント以下となる等、実際より影響が小さくなるとの誤つた見解を打出していた。伊達漁協の組合員の大部分は右中間報告を権威ある専門家の正確な調査として受入れ、漁業への影響は、少ない旨誤信した結果、前記のような決議に至つたものであり、この錯誤は意思表示の重要な部分に関するから決議は民法九五条により、無効である。
二、本件公有水面の埋立により、有珠漁業協同組合は、その組合員の生活の基礎をなす漁業権に重大な影響を受けるが、被申立人は本件埋立免許をするについては、有珠漁協に告知聴問の機会を与えていない。本件埋立免許は、憲法二九条、三一条に違反し、無効である。
本件公有水面の埋立により、有珠漁協の漁業権は次のような各種影響を受ける。
1 工事中の被害
本件埋立免許の対象は、面積32,795.90平方メートルの公有水面であるが、北海道電力株式会社は、右公有水面を含むエントモ岬東側海岸沿いに、面積約一二〇、〇〇〇平方メートルの取水口、取水路および資材陸揚げのための小型港湾を築造する計画である。施工方法は、防波堤用の石材を海中に投入してこれを積上げ、水路となる部分を水深約七メートルまでサンドポンプ方式で堀り下げ、汲み上げた泥土を埋立に使用しようとするものである。この海域の海底には、長流川の汚濁水中の滞留物、し尿処理場および志村化工、北海道糖業の各工場の廃水中の滞留物等のヘドロの堆積が多い。このヘドロが石材の投入、海底の掘さく等によつて浮上し、海水と混合してこの海域全体が汚濁する。
北海道電力株式会社は埋立工事にあたつては工事区域の外周を汚濁フエンスで囲み汚濁水が工事区域外に流出するのを防止すると説明しているが汚濁フエンスは、汚濁水の流出を完全に防ぐことはできない。
長和地先の接沿岸流は、北西流(北西に向う流れ、伊達漁協海域から有珠漁協海域に向う流れ)が圧倒的に多いから、汚濁水はエントモ岬をこえて有珠漁協の海域に流入する。汚濁水は、養殖及び天然のホタテ、ウニ、アワビ、コンブ、ワカメ、ノリなどの漁貝草類に泥土を付着させその成長を阻害するばかりでなく、窒息枯死させる。とくに幼い種苗、種貝への影響が大きい。刺し網、定置網養殖施設自体も泥土が付着すると使用不能となる。泥土が海底に積堆すると海況に変化を来す。エントモ岬からアルトリ岬までの間の海域は有珠漁協の主力養殖漁場でありここの養殖漁業は壊滅的な被害を受けるおそれがある。また汚濁水で海水が濁ると磯突き漁業(のぞき箱で海底をのぞいて、やすで、ウニ、ナマコ、ホタテなどをとる)も不可能となる。
2 工事完成後の漁業環境悪化
本件埋立による小型港湾が完成すると本件埋立部分の南側に東西にのびる長さ約五一九メートルの護岸および防波堤とエントモ岬から南東に長さ約一六五メートルの防波堤ができる。この護岸および防波堤は「返し波」をひき起し、エントモ岬周辺における小型漁船の航行を困難にし、転ぷくの危険さえ生じる。
小型港湾の出現で海岸の地形が変るため、潮流に変化を来し魚道にも影響が生じる。
3 取水による被害
本件公有水面の埋立は、北海道電力株式会社の伊達火力発電所の冷却用水の取水口、取水路、物揚場等の施設用地の造成を目的とする。取水する海水の量は毎秒二二トン、一日約一九〇万トンに達する。冷却用に取水された海水は、タービンの復水器を通るときの急激な温度上昇(八度ないし一四度)、かく乱、および塩素ガスの混入(機器の内側に貝類が付着するのを防ぐため)により、その中に生存するプランクトン類やホタテの稚貝(浮遊幼生)の大半が死滅する。ホタテの養殖は伊達、有珠両漁協の有力な漁業対象であり、噴火湾は我国のホタテ種苗の唯一の供給地である。プランクトンの減少は、これを餌にしている漁貝草類の生育に悪影響を及ぼす。大量の海水の取水は、周辺の漁業資源を減少させる。たしかに、取水口は伊達漁協の漁場に建設されるが、取水口と有珠漁協の漁場との距離はわずか四〇〇メートル程度であり、海水は常に流動しているものであるから、取水によつて有珠漁協の漁場の漁業資源が減少するのは免れない。
4 温排水による被害
取水された海水と同じ量の温排水が海中に放出される。温排水は、タービンの復水器を通るときに温度が上り、伊達火力発電所排水口では北海道電力株式会社の説明によつても夏季五度C、冬季七度C海水より温度が高くなる。魚貝草類は、一般に少しの温度差にも敏感に反応する。温排水の排水口は伊達漁協の漁場内に建設されるが、その位置は有珠漁協の漁場から約一、六〇〇メートルしかはなれていないうえ、長和地先の接沿岸流は北西流が卓越しているから、温排水は有珠漁協の漁場に達し、漁業環境に種々の悪影響をひき起す。室蘭地区水産業改良普及所が実施した苫小牧共同火力発電所(昭和四六年五月運転開始、出力五〇万キロ)排水口地先海域におけるホッキ貝資源調査によれば温排水放出前の昭和四五年一〇月の資源量にくらべ、昭和四八年三月の資源量は約三二パーセントに減少し、そのうちとくに年令五才以下の右令貝は、昭和四五年当時の約一一パーセントと著しく減少している。
公有水面埋立法五条は、公有水面に権利を有する者の範囲を公有水面の占有権者、漁業権者、入漁権者、法令または慣習により公有水面より引水をし、または公有水面に排水をする者と列記するが、以上述べた各種被害状況から考えると、有珠漁協は、本件公有水面において引水または排水する者と同程度またはそれ以上重大な利害関係を有し、公有水面埋立法によつて保護される資格があると解すべきである。
二、本件公有埋立の免許は、埋立による影響について十分な事前調査をしないで、なされた。
公有水面の埋立は、単にそこで漁業を営む者に影響を与えるだけでなく、自然を破壊し、環境変化につながるものである。
被申立人は本件埋立免許にあたつては、事前に漁業および自然環境に与える影響について、十分な科学的調査を尽すべきであつたのにこれを怠つた。行政は環境保全について責任を負う。環境権は手続面からみると行政に対し環境に影響を与える行為をする場合には事前に充分な科学的調査をすることを義務づける、従つて本件埋立免許は違憲無効である。
四、本件埋立免許は申立人らを含む住民の環境権を侵害し、公益性の原則にも違反する。
1 本件公有水面の埋立は、北海道電力株式会社の伊達火力発電所の取水口等の施設建設を目的とする。
同発電所は、出力七〇万キロワット、使用重油のいおう含有率は、現在の公害防止協定では1.7パーセント以下であり排出いおう酸化物の量な、脱硫装置の効果や稼働率を考慮しないとすれば、年間約四七、〇〇〇トンであり、稼働率を七〇パーセントとすれば三三、〇〇〇トンである。いおう酸化物、ちつそ酸化物、ばいじんおよびその複合による大気汚染が必然的に発生し健康被害、農業被害、漁業被害を引き起す。
2 伊達地方は、北海道の西南部噴火湾に面し、支笏洞爺国立公園を含み冬期の積雪も少なく、温暖で「北海道の湘南」「緑と太陽のまち」といわれている。気象条件に恵まれ、昼夜の温度差が少なく、良質な土壌と相まつて農作物の作付種類も多く、野菜の特産地である(北海道における早出し野菜の唯一の供給地である)。
漁業ではとくに有珠近海の底質は岩石で形成され、幾多の島に恵まれ、海藻の種類が農富で繁茂は他に類を見ない。コンブ、ワカメ、ノリ、ホタテ、ウニ、アワビ等の養殖が盛んで噴火湾地域は急速に北方栽培漁業の基地に発展している。
伊達市には、ぜんそく児童のための有珠優健学園、精神薄弱者総合援護施設である道立太洋の園、伊達赤十字病院等があり、北海道の保養地として、ぜんそく等に苦しむ人々が保養療養に来ている。このような自然環境に恵まれた伊達地方を前記のような大規模な火力発電所による公害で汚染することは許されない。
3 電源の開発は、他にとりうる手段がある点で代替性があるが生命、健康は勿論、自然環境も一度破壊されると、とり返しがつかない。自然破壊が進んでいる我国では、良い自然を残すことこそ公益に合致する。
本件公有水面の埋立は、伊達火力発電所の建設工事の一環であり、これと一体をなす関係にある。
第四、申立人らの以上の主張に対し、次のような反論があるかもしれない。本件公有水面の埋立は、伊達火力発電所の取水口等の施設建設を目的とするから、土地収用をすることができる事実のため必要な場合に該当し、公有水面埋立法四条三号により、権利者の同意がなくても、適法に埋立免許をすることができる。しかし、この見解は誤りである。私有財産権を収用するときは、たとえそれが公共の目的のため必要な場合であつても、必ず事前に利害関係人に告知聴聞の機会を与えなければならないことは憲法二九条、三一条の要請である。公有水面埋立法の右条項は、私有財産に属する漁業権等を権利者に告知聴聞の機会を与えずに収用することを認めていると解釈される限度で、違憲無効である。
第五、埋立工事の着手により、直ちに申立人らの漁場は悪影響を受け、とくに申立人目録(一)の申立人らの漁場は埋立が完成すれば埋立部分について永久に消滅し、原状回復は不可能となる。海岸のような自然環境も一度破壊されてしまうと元に戻すことは著しく困難である。これらの損害を避けるため、緊急に本件埋立免許処分の効力を停止する必要がある。
被申立人の意見書の要旨
本件執行停止の申立は却下すべきものと思料する。
理由
第一、本件埋立免許の経緯
一、埋立免許の申請
(一) 北海道電力株式会社(以下「北電」という。)は、昭和四五年ころから、伊達市長和町に出力七〇万キロワット(出力三五万キロワット二基)の伊達火力発電所(以下「伊達火発」という。)の建設を計画したが、右建設工事計画の一環として、発電用冷却用海水の取水口、取水路、物揚場荷置場等の施設の敷地として、エントモ岬東側の同市長和町三一五番地の二、同三一六番地の一及び同三一六番地の二並びに同国有鉄道用地の地先の公有水面3万3,795.90平方メートルを埋立て、右取水口、取水路、物揚場、荷置場等の施設及び防波堤(以上の施設を総称して以下「取水口外かく施設」という。)を建設し、及び同市長和町二二七番地の二地先海面に放水口施設を建設する必要を生じたので、右各海面に共同漁業権(海共第一三五号)及び区画漁業権(海区第四八号)を有する伊達漁業協同組合に対し、右各漁業権の変更(同漁業権につき右各海面部分を消滅させること)を要請した。
(二) 伊達漁協は、昭和四七年五月三一日の総会において、水産業協同組合法四八条、五〇条の規定に基づき、右共同漁業権及び区画漁業権にかかる漁場の区域を、取水口外かく施設に必要な区域及び放水口に必要な区域を除く区域とする旨の漁業権の変更について議決権を有する全組合員一四六名(本人出席一二五名、委任状出席二一名)の無記名投票の結果、賛成一〇三票反対四三票をもつて右漁業権の変更を議決した。
さらに、右総会において、伊達火発建設に伴う公害防止に関する基本的協定事項及び漁業補償に関する基本的協定事項についても組合員全員の賛成をもつて議決された。
(三) そこで、伊達漁協は、右総会の議決に基づき、昭和四七年六月三〇日、北電との間に、伊達火発の建設に伴う漁業に対する影響の緩和、被害の防止及び漁業補償等に関する協定を締結した。
右協定では北電は伊達火発建設に必要とする海域について伊達漁協またはその所属組合員が受ける漁業損失に対する補償金として金四億五、〇〇〇万円及び温排水利用の研究開発に対する協力金として二、〇〇〇万円を支払うことが取りきめられた。
(四) そこで伊達漁協は昭和四七年八月一四日、北電に対し、エントモ岬南東における取水口、取水路、物揚場、荷置場等の施設用地の造成を目的とする公有水面の埋立について同意した。
(五) 以上の経緯を経て、北電は、昭和四七年八月一四日、公有水面埋立法二条の規定により、北海道知事に対し、取水口、取水路、物揚場、荷置場等の施設用地造成のため伊達市長和町の地先3万3,795.90平方メートルの公有水面についての埋立の出願をした。
二、埋立の免許
(一) 知事は、昭和四七年九月八日、法三条の規定により、伊達市議会に対し諮問を行ない、同年一〇月五日、可とする旨の答申を受けた。
(二) 右答申を受けた知事は、
1 伊達火発の建設計画が、すでに国の電源開発基本計画案に組み入れられており、その後電源開発審議会の承認を経て、同年一一月一七日内閣総理大臣が右の計画案のとおり基本計画を決定し、告示したこと、(電源開発促進法三条)
2 一方北電においても、伊達火発建設のための電気工作物の変更許可を申請し(電気事業法八条)、同年同月二四日これが通商産業大臣によつて許可基準に適合するものとして許可され(同法五条)、その建設期間を同日から三年以内として指定され、その結果、北電は右指定期間内に伊達火発を建設して操業しなければならない義務を負つていること(同法八条四項七条一項)
3 後記第五記載のように、取水口外かく施設は、伊達火発の建設及び操業に不可欠であること。
から本件埋立の必要性・公益性を認めるとともに、法四条一号の同意の有無については勿論、その漁業に及ぼす影響その他についても慎重かつ十分な調査、検討を行なつたうえで、昭和四八年六月二五日、法二条の規定により本件埋立の免許の出願に対する免許処分を行なつた。
(三) なお、伊達火発建設工事の一環として行う取水口外かく施設工事のうちの防波堤建設工事については北海道沿岸水域の工事取締条例(昭和二四年九月一一日北海道条例七四号)四条の知事の許可を必要とするので、北電では、本件公有水面埋立免許申請の日知事に対して右工事の許可申請をなし、これについて、知事は、本件処分の日に、その許可処分をしている。
三、漁業権の変更
(一) 伊達漁協は、漁業権変更に係る総会の議決に基づき、昭和四七年七月四日、漁業法二二条一項の規定により、知事に対し共同漁業権及び区画漁業権に係る変更免許の申請を行つた。
(二) 知事は、昭和四七年七月一九日、漁業法二二条三項、一二条の規定により、胆振海区漁業調整委員会に対し諮問を行ない、同年七月二九日、変更することに異議ない旨の答申を受けた。
(三) 右答申を受けた知事は、本件漁業権変更免許の申請は、適法に行なわれたものであり、かつ、漁業法二二条二項及び同法同条三項において準用する同法一三条の規定に該当しないものであることを確認したうえで、昭和四八年六月二五日、同法二二条一項の規定により、本件漁業権変更の申請に対する免許処分を行なつた。
第二、本件執行停止の申立は、申立人らが本案について原告適格を有しないから不適法である。
一、申立人全員について
いわゆる環境権は成法上の権利でなく、学説上もその意義内容が固つているとはいえないが、申立人らは住民としての生活環境の保全をその内容として捉えているものと思われる。しかし、申立人らが主張するような生活環境の保全は公益一般の問題であり、また後記二のとおり、公有水面埋立法の趣旨に照し、埋立をしないことによる附近住民の利益は単なる反射的利益にすぎないと考えられるので、環境権を根拠として本件処分を争い、その処分の効力の執行停止を求めることはできない。
一、有珠申立人について
(一) 有珠漁業協同組合の組合員である申立人らは、いずれも漁業法八条一項の「組合員の漁業を営む権利」に基づいても本件申立をしている。
1 しかし、公有水面埋立に関し法四条で「埋立ニ関スル工事ノ施行区域ニ於ケル公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者」があるときは、原則としてその者の同意がないときは埋立免許をなしえないし、五条で公有水面に関し権利を有する者として一定の者を列挙し、六条で埋立の免許を受けた者は右権利者に補償又は損害防止の施設をなすこととし、さらにその施行令五条で埋立免許の競願があつた場合の処置に関し、七条で埋立免許に際して公益上又は利害関係人の保護に関し条件を附しうることを規定しており、これらの法条及び埋立の免許が講学上の特許(設権行為)であることを考慮すると、訴訟上埋立の免許の適否について出訴資格のある者は、法五条列挙の者及び競願者のみであると解され、申立人らはそのいずれにも該当しないから、もともと申立人らには本案訴訟の原告適格がなく、本申立も許されないものといわなければならない。
2 申立人らは、本件処分による工事中の被害を云々するが、その主張のような被害は本件処分自体の結果ではなく、取水口外かく施設の建設工事の工法が不完全な場合に生ずる結果であつて、本件処分による不利益とはなしえない。
3 つぎに同申立人らは、本件工事完成後の被害として漁業環境の悪化を、伊達火発操業開始後の被害として取水による被害及び温排水による被害を挙げるが、そのいずれも、本件処分自体による不利益ではなく、反射的な不利益である。
そもそも漁業権は、公共の用に供する水面につき水面の総合的高度利用をはかり、漁業生産力の発展と漁業の民主化を実現することを目的とし、漁場計画を基本として、行政処分をもつて創設される権利であるから、公共の水面を利用することからする特質により、他の私権に比し、公的制約が極めて強く、その私権的性格は著しく制限されているのであつて、単純に土地所有権等と同一視することはできず、漁業権者が右採捕養殖の事業を行う水域を完全に排他的に支配利用する権利、換言すれば、太古以来あるがままの地形、海流、水質、水温において支配利用することまで、認めた権利とは到底解されず、そのような利益は反射的利益と解さざるをえない。
もし本件工事の完成および伊達火発建設工事完了による操業によつて、有珠漁協の漁場が、受忍の限度を越える妨害を受け被害を蒙るものとすれば、それはもはや本件処分自体による申立人らの権益の侵害ではなく、他の原因による被害の発生であつて、申立人らは別個の救済手続で救済を求めるべきであるが、被申立人はこれらの被害の発生のおそれがないことを検討して本件処分を行つたものである。
(二) なお同申立人らは、被申立人が本件処分をするについて、有珠漁協に告知聴聞の機会を与えていないので、本件処分は、憲法二九条、三一条に違反し無効であると主張するので、この点に触れておく。
憲法三一条の法定手続の保障は行政手続に類推適用すべきものとしても、法定手続、ことに告知聴聞の機会の保障される者は、当該行政処分によつて直接自己の権利法益を侵害される立場にある者たることを要するものであつて、同申立人がこれに該当しないことは既述のとおりであるから、本件処分について告知聴聞の機会を与えないからといつて憲法二九条、三一条違反の問題は起りえない。
およそ行政処分を行うにあたり、いかなる範囲の者にいかなる程度の告知聴聞の機会を与えるかは立法政策の問題であつて、公有水面埋立に関して、法は三条で埋立行為によつて公有水面の公用が廃止されることになり、また埋立工事が公害を生ずる場合もあることから、埋立に関し地元民の意見反映の機会を持たせる配慮として、埋立免許をする前に「地元市町村会ノ意見ヲ徴」することとしているのである。そして公有水面に関する権利は、公共用物の上に存在する権利であつて、公義務を内包し所有権のごとき絶対的な排他的支配権と自らその性質を異にするものであるから、公有水面埋立につき、現行法が法五条の権利者に対してすら告知聴聞の機会を与えていないことからしても、これを違憲無効と断定することはできないのである。
二、伊達申立人について
伊達漁協の組合員である申立人は、本件処分等にかかる海域について伊達漁協がなお漁業権を有しており、同申立人らはいずれも漁業法八条一項の「組合員の漁業を営む権利」があるとして本申立をしたが、第一掲記のとおり本件処分等にかかる海域についての伊達漁協の漁業権は、知事の漁業権変更免許がなされたことにより消滅しているから、同申立人らの権利も消滅している。従つて同申立人にも本件処分の取消を求める原告適格はない。
第二、本件執行停止の申立は、本案について理由のないことが明らかである。
元来公有水面埋立免許処分は、特定の公有水面を埋立てて土地を造成し、その竣工認可を条件に埋立地の所有権を取得させる権利を設定する行政処分であり、その免許権限を規定した法二条は白地規定であるとともに、免許権限の行使について法は一定の消極的要件(四条、五条)と手続上の制約要件(三条)を置くほか、何らの定めもしていない。従つて公有水面埋立免許処分は自由裁量処分と解さざるを得ず、かような自由裁量処分については、裁量権の踰越又は濫用のある場合にのみ違法の問題を生ずる。
ところで、本件処分が、免許権限行使の消極的要件たる法四条一号に該当し及び法三条の手続を履践していることは、第一掲記のとおりであり、この点に違法はない。
かりに、申立人らにおいて、本件処分による埋立工事ないしは工事完成後の発電所の操業により各種の被害を受けることを理由として、本件処分についての被申立人の裁量権の踰越又は濫用を主張するものと解しても、以下に詳述するとおり、その主張のような被害の発生はないものであるから、いずれにしろ、本件処分は違法というべきであり、本案について理由のないことが明らかである。
一、伊達申立人について
本件区域にかかる漁業権については、確定的に消滅したことは第一、三で述べたとおりである。しかるに、右申立人らは、伊達漁協の総会における漁業権の一部放棄の議決は当然無効であるとして、本件処分を攻撃するが、右主張は左により失当である。
(一) 水協法五〇条の規定は憲法二五条、二九条、三一条に違反するとの主張について
右主張は、社団法人の意思決定原理である多数決原理を否定するもので立論自体失当である。
(二) 漁業協同組合がその有する第一種共同漁業権(またはその一部)を放棄するには漁業法八条五項、三項の漁業権行使規則の変更と同様の手続を必要とするのに、これがとられていないから右特別決議は無効であるとする主張について
漁業権の得喪変更は、組合員が有する漁業を営む権利に影響なしとしないけれども、実定法上は、各組合員個人の漁業を営む権利は、組合の有する漁業権を基礎とし存続するものであるから、その基礎たる漁業権の得喪変更は、その帰属主体たる組合の団体意思(水協法五〇条四号の特別決議)のみに基づき決せられると解すべきである。
このことは水協法五〇条が、その第四号において漁業権の喪失、変更を、その第五号において各組合員の漁業を営む権利の根拠たる行使規則の変更廃止を併列的に規定しながら、漁業法八条五項においては、漁業権行使規則の変更廃止の場合にのみ、同条三項の規定を準用し、当該漁業権の喪失、変更に関しては何ら規定するところがないことからも明らかである。なお、伊達漁協の漁協の漁業権行使規則には各組合員の漁業を営むべき区域を個々に規定していないので、埋立等の区域につきその変更は必要でない。
(三) 右特別決議は、錯誤に基づく意思表示であるから無効であるとする主張について
申立人らは漁業権行使権者に過ぎず本件漁業権の主体は、伊達漁協であつて、権利主体以外の者が錯誤の主張をすることが許されないばかりでなく、そもそも社団意思の決定たる議決権行使のような意思表示に民法上の錯誤は適用されるべきでないから、右主張自体理由がなく失当である。
二、有珠申立人らについて
(一) 申立人主張の取水口外かく施設の建設に伴う被害について
1 取水口外かく施設工事の概要
この工事は、伊達火発の冷却用水取水のために建設するものであるが、その一部は火力発電所建設時に必要な主要機材の搬入のための仮設物揚岸壁としても使用される。取水口外かく施設として本件埋立を行い建設される施設は取水口設備、埋立護岸(東護岸及び取付護岸)、防波堤及び仮設物揚岸壁である。
取水口外かく施設の工事は、まず東護岸を陸地側から築造し、ついで東防波堤及び取付護岸を築造する。これに併行して陸地の方から取水口設備及び仮設物揚岸壁を建設して埋立予定地を囲う。その後その埋立予定地に埋立を行なうが、埋立土は海底からしゆんせつした土砂を利用する。このしゆんせつ埋立と併行して西防波堤を築造する。
(1) 護岸及び防波堤の築造工事
護岸及び防波堤は、その基礎をなす捨石をダンプトラックで運搬し、これをトラクターショベル、クローラークレーン等により海底より積みあげ、仕上をして、その上層にコンクリート製の消波ブロック(テトラポット等)を二層に積み上げ、さらにその天端に上部コンクリートを打設して築造する。
(2) 取水口設備及び物揚岸壁の締切工事
取水口設備及び物揚岸壁は、幅四〇センチメートル、長さ一〇メートルないし一六メートルのU字型鋼矢板を約七〇メートルにわたつて打ち込んだ六メートル間隔二列の壁を作り、その壁と壁の間に盛土をし埋立地と海とを遮断する。
(3) しゆんせつ及び埋立工事
取水口外かく施設内の一部の海底をポンプしゆんせつ船によつて水深七メートルにしゆんせつし、その土砂を排砂管を通して埋立護岸(東護岸及び取付護岸)、取水口設備等によつて囲まれた埋立地に流送し埋立てる。
2 工事中の海水汚濁防止
(1) 工事施工水域の海底地質
本件工事水域における海底の地質調査結果によると、本件工事水域の水深七メートル以浅における海底は、砂であり、ヘドロの堆積はみあたらない。従つて、工事に際してヘドロによる汚濁を生ずることはない。
(2) 工事による海水の汚濁の程度及び範囲
これを工事ごとに検討するに、
(ア) 埋立護岸及び防波堤の築造は、この粗い砂地に石を積み上げて行なう工法をとるので、海底土砂が舞上つても直ちに沈降して行くので、その汚濁はごく局部的な範囲にとどまる。
(イ) 海底土砂のしゆんせつは、海水とともに土砂をポンプで吸い上げるので、その周辺の汚濁はほとんど発生しない。
(ウ) 海水とともに排出される土砂は、埋立予定地内の沈澱池で大部分が沈降するので、東護岸の中間に仮設される沈澱池の排水口から外海へ排出されるときには、汚濁はきわめて小さくなる。
(3) 汚濁防止対策
本件工事に伴う汚濁は局部的なものであるが、汚濁防止に万全を期するため、次の諸対策がとられる。
まず、護岸及び防波堤の築造にあたつては、
(ア) 工事の進行状況にあわせ、順次施工箇所を海水汚濁防止シートで取り囲んだうえで工事を施行する。
(イ) 海中に積み上げる石材は、これに付着している泥分を取り除いたうえで行なう。
(ウ) 工事施工は、工事の付近水域が静穏なときのみ行ない、沖波の波高が一メートルに達したときは中止する。また、しゆんせつ及び埋立工事の施工にあたつては、
(エ) 埋立に際しては、すでに設置してあるシートの内側に、さらに沈澱池の排水口を中心として半円型にシートを設置し、二重にシートで汚濁水の流出を防止する。
(オ) 埋立開始前に、埋立部を埋立護岸や鋼矢板で外海と遮断するとともに、護岸の下部はテトラポットと石塊でありその隙間から埋立土が流出するのを防ぐため、護岸内側法面に吸出防止用のシート(海水汚濁防止シートとは別のもの)を布設する。
(カ) 埋立地を、あらかじめ、四ブロックに区分し、それぞれしゆんせつ土砂の沈澱池として利用(しゆんせつ土砂は、海水とともに別添図画1の沈澱池①に流送され、該区画部分に沈降し、その上澄み部分は、同②③を経るごとにさらに沈降しながら同④にいたる。)しながら、取水口側ブロックから、逐次、埋立を行なう。
(4) 海水汚濁防止シートの効果
本件工事に際しては、あらかじめ、シートを設置するが、このシートは海水汚濁防止対策として全国各地で信用されており、その効果のきわめて高いことが実証されている。さらに本件工事の場合は沈澱池排水口にシートを設置するほか、さきに埋立護岸等の築造に際して、その外側に設置したシートとともに二重の汚濁防止構造とするものであり、そのシートの上部は海面より上に出ており、下は海底まで張られるものであるから本件工事による汚濁は、確実に防止できる。
本件工事に使用するシートの強度は水深七メートルで、1.5メートルの波高、毎秒二〇メートルの風速を設計条件とし、これに安全率を考慮に製作されているので、きわめて安全度が高い。
また、長和地区地先の海域は一年を通じて1.5メートル以上の波高がほとんどない海域であるから、シートの有する強度とあわせて、申立人らが主張するような事態はまつたく起り得ない。
(二) 工事完成後の漁場環境について
1 取水口外かく施設建設に伴う周辺への影響
取水口外かく施設の配置、形状及び構造は、周辺への影響をできるだけ少なくするように配慮したうえ、水理模型実験や海の流れの数値計算を行ない、さらに低気圧時に発生する高い波(三メートル程度)を対象として検討した結果、決定されたものである。すなわち、
(1) その配置はエントモ岬の自然の形状を生かして、平面形状は流れを乱さないためにスムーズな形を採用し、海岸地形、波向き及びその反射波(返し波)による影響を考えて護岸や防波堤の方向を決めたこと。
(2) 護岸及び防波堤の構造は、捨石堤とし、これに消波ブロック等で被覆して消波効果を高めていること。等、海岸工学的にみて、取水口外かく施設による海水の流動をなるべく変化させないことや、反射波や沿い波の発生を防ぐよう十分配慮した形状となつている。したがつて、有珠申立人らが主張するような漁場環境への影響や漁船の転覆の危険が生ずるようなことはまつたくありえない。
2 取水口による被害
(1) プランクトン類について
プランクトンへの影響は温度上昇値と刺激時間の長さが大きな要因となるものであつて、プランクトンの大半がこの過程でどの程度の被害を受けるか、現在なお意見の分れるところである。
かりに、温度上昇等によつてプランクトンの一部に被害が生じるとしても、長和地区地先の海域は海水の交換性がよく地先水域のプランクトンの数は膨大で計り知れないほどのものであるので、ある程度の影響があるとしても、その量や組成におよぼす影響は問題にする程ではないと考えられる。
また、伊達火発の場合は、塩素ガスの混入を行なわないことになつているので、この点からも有珠申立人らが主張するような事態は起りえない。
漁場環境の一つとなるプランクトン類の量及び組成については、個々の生体の復水器通過による死滅や損耗の問題もさることながら、取水口及び放水口附近水域を対象とした広い漁場環境の実態を把握することがより重要である。
(2) ホタテ貝の浮遊幼生について
日本水産資源保護協会は、わが国における調査機関としては最高の権威を有するもので、その報告内容についても十分に信頼できるものである。
しかして、右保護協会の漁業調査報告書は、以下の経緯により作成されるに至つたものである。
すなわち、この温排水の漁場へ及ぼす影響について、昭和四五年頃より伊達市(当時は伊達町)、伊達漁協および北電は協議を重ねたのであるが、ことがらの性質上、伊達漁協は温排水の漁業へ及ぼす影響について公正な第三者の判断を強く希求した。そこで伊達漁協、有珠漁協のほか、海共第一四八号に共同漁業権を有する蛇田、豊浦、室蘭の各漁協および伊達市などを構成メンバーとして「北電伊達火力発電所建設に関する調査委員会」が設置され、各方面の意見を徴した結果、この問題の調査を委嘱すべき第三者としては、多年にわたりわが国における水産資源の保護培養に関する知識および技術の向上に多大の貢献をなした前述の保護協会が、最も適当であるとの結論に達し、保護協会にこれを委嘱することとした。伊達市は右調査委員会の意向により、昭和四六年六月、保護協会に対し、伊達火力建設に伴い伊達市地先海面を対象海域として今後予想される漁業・水産生物資源に対する影響予察を行なうことを依頼した。
右依頼を受けた保護協会は、一年間にわたつて、専門家による各種調査、検討を行ない、昭和四七年六月その調査結果をとりまとめたものがこの漁業調査報告書である。
いまかりに、右報告のうちから、ホタテ付着稚貝に及ぼす影響率4.6パーセントの点をとりあげてみると、ホタテ貝浮遊幼生の死亡率は、一二度から一六度までの急激な水温の上昇でもとくに高くなる現象はなかつたとしながらも、取水中にふくまれるホタテ貝浮遊幼生の生存可能率については明らかでないとし、すべて死滅するとの前提のもとに計算されている。そしてさらに、ホタテ貝浮遊幼生の浮遊期間三五日間における総取水量六、六五三万立方メートル中に含まれるホタテ貝浮遊幼生総数五、九八五万個体は、その幼生期における自然死滅を無視して0.1ないし1.0パーセントの歩留で付着稚貝になるとすれば六〇万個体に相当すると仮定し、かつ、その六〇万個体たる数量は、伊達漁協の昭和四二年から同四五年までの年間平均採苗数(約一、三〇〇万個体)の4.6パーセントに当るとするものである。
したがつて、右報告書を注意深く読めば、伊達漁協のホタテ貝の年間採苗数が六〇万個体減少するというものではなく、たんに、伊達漁協の年間採苗数の4.6パーセントに当るホタテ付着稚貝が取水によつて損耗するおそれがあるというに過ぎないことが容易に理解されるはずである。
しかし、右六〇万個体のホタテ付着稚貝の損耗は、考えられる最悪の条件下における推算であり、しかも、ホタテ貝一個の産卵数は八、〇〇〇万ないし一億七、〇〇〇万粒と推定されることからしてホタテ貝浮遊幼生は長和地区地先海面を含む噴火湾一帯の海域においてほとんど無限に存在するものであるから、かりに、取水によるホタテ付着稚貝の損耗が右推算どおりとしても、それによつて現実の採苗に影響を及ぼすことは絶対にありうることではない。
3 温排水による被害
(1) 温排水の拡散予測について
伊達火発の取水口から取水された毎秒二二立方メートルの海水は、復水器を通過する際に、温排水の影響を受けない周辺水域の水温(環境水温という)より夏季五度C、冬季七度C上昇して放水口から海へ放出される。
この放出された温排水は、渦の動きによる拡散や潮汐による混合、それに海水加入による混合などによつて混合希釈して拡がつて行く。
協会の前記報告書によると、伊達火発の放水口から七度C上昇した温排水を毎秒二二立方メートル放出する場合、温排水拡散の予測範囲は、環境水温より一度Cだけ海水温が上昇する水域、すなわち温度差一度C上昇域は、放水口から沖合方向に七八〇メートル、汀線方向には海流による影響を考慮に入れても、放水口の左右にそれぞれ一、五〇〇メートルの距離を越えることが殆んど考えられない。従つて、温排水によつて有珠漁協の漁場の区域が影響を受けることがあるとしても、それはごく部分的、小規模なものであり、申立人らが主張するような影響はない。
なお、右温排水の拡散予測に際して採用された平野式は、元水産庁西海区水産研究所の平野博士(現東京大学海洋研究所教授)の研究によつて導きだされた実用的理論式である。この式は、これまでに行なわれた河川水や産業廃水の流入拡散に関する各種の調査や実験、さらに「新田式」と呼ばれる経験式の種々の知見などと、さらに温排水の拡散予測を行なう場合の要素としての海水加入による混合過程や、直線状の海岸地形などを織り込んで導き出されたものである。この式は、すでに、三重県芦浜の原子力発電所や香川県坂出火力発電所などの温排水の拡散分布の予測に際して採用されており、日本水産資源保護協会が昭和四六年に環境庁の委託を受けて千葉県姉ケ崎火力発電所の温排水分布を航空機による赤外線スキヤンニング法で調査した結果からみて、平野式の計算結果が新田式、坂本式の計算式より最も近い値を示していることからも高く評価されている。
(2) 温排水による影響について
温排水が魚貝藻類に及ぼす影響についても、保護協会の前記報告によれば、プランクトンの増殖、ホタテガイ及び魚類の生育等についてはほとんど問題とならないとされており、前述のように、温排水の拡散範囲が局部的である点と考えあわせれば、有珠申立人らが主張するように、有珠漁協の漁場の区域にまで影響を及ぼすことはありえない。
4 長和地区地先の海流
長和地区地先の海流について付言すれば、その接沿岸流は、南東方向の流れ(有珠から室蘭方向への流れ。以下「南東流」という。)が卓越していることがこれまでの調査によつても明らかである。
すなわち、
(1) 北海道開発局の「栽培漁業開発資料」によれば、内浦湾の海流は、春から夏にかけては親潮系水の流入により時計廻りの環状流が卓越しており、秋から冬にかけては、津軽暖流系水の流入で反時計廻りの環状流が卓越している。しかし、長和地区地元の接沿岸流は、海岸線に平行な南東流が卓越し、時には北西方向の流れに変わることもある。
(2) さらに、長和地先において実際に接沿岸流の流れの方向を観測しているが、保護協会の報告書及び北海道が現在行なつている長和地区地先海流の調査によつても、南東流が卓越している。
(3) 一方、海岸地形や長流川河口の砂州の状態などから、海岸工学的に考察しても、南東流が卓越していることが推定される。
したがつて、この点からも、有珠漁協の漁場が本件取水口外かく施設の建設工事及び温排水によつて有珠申立人らが主張するような影響を受けるものではない。
第四、本件執行停止の申立は、回復困難な損害およびこれを避けるための緊急の必要性がない。
一、申立人らが本件埋立免許によつてこうむると主張する損害は、右漁場における申立人らの漁業収益の減少という財産権上の損害であるが、これが本件処分自体による直接の損害といえないばかりか、本来金銭賠償によつて填補可能なものであるから、社会通念上右損害の回復は容易なものというべきであり、右損害をもつて回復の困難な損害ということは到底できない。
しかも、本件においては、以下に述べるとおり、本件埋立工事による申立人らの漁業収益上の損害の発生は考えられないのである。
二、伊達申立人らについて
(一) 伊達申立人らが、漁業を営む権利を有すると主張する本件埋立地の漁業権は、既に述べたとおり(第一、三)、昭和四八年六月二五日付被申立人の変更免許処分がなされたことにより、確定的に消滅した。したがつて、本件埋立地に関する限り、申立人らが漁業を営む権利も当然存続し得ないから、損害の発生は本来あり得ない。
(二) 次に、申立人らが主張する本件損害の内容を検討すると、伊達漁協が有した共同漁業権の漁場の区域は約四、八二〇万平方メートル、同区画漁業権の漁場の区域は約二、四一〇万平方メートルであるのに比し、本件埋立に伴う漁業権の一部消滅にかかる本件区域は、約一二万平方メートルであつて、昭和四六年度伊達漁協業務報告書によると、右漁業権変更免許前の全区域から水揚げされた同年度における同漁協の生鮮魚貝類の受託販売高(自家消費を除いた生産高であり、純生産高の九五パーセント以上に該当する。以下同じ)は、約一億八、八一三万円であるから、これを本件埋立地について面積比をもつて計算すると、約四七万円となり、組合員一人当り年間わずかに三、一〇〇円となる。
右の計算値は、本件埋立地で申立人らが現実に右全水域の平均値程度の漁獲をあげうることを仮定したうえでの立論であるが、そもそも右埋立地は漁場としての利用価値はほとんどないところであり、しかも伊達漁協及びその組合員全員の漁業損失の補填のために、組合員全員一致の決議に基づき同漁協と北電との間で締結された漁業補償協定により、右埋立地等に存した漁業権の消滅等による損失の補償として、四億五、〇〇〇万円が同漁協に交付される旨約定され(第一、一、(三))、その約旨により逐次その支払いが行われているので申立人らが主張する本件損害は、償われている(法六条)ことに徴すると本件埋立による損害の発生は、全くないものというほかない。
三、有珠申立人らについて
本件工事は、有珠漁協の共同漁業権及び区画漁業権の漁場の区域の漁業に対しては、なんらの影響もおよぼさないものでり、また、伊達火発の操業に伴う取水及び温排水については右区域内での漁業に及ぼす影響はほとんど考えられない。
四、申立人らの損害の発生は考えられないところであるが、その主張するところによつても、損害の態様及び発生時期は一様でなく、詳言すれば、取水口外かく施設の工事中の被害については長いものでも約半年位の期間中にとどまり、さらに取水及び温排水による影響に至つては、右各施設及び発電所建設工事の竣工後の運転開始段階になつてはじめて発生する筋合のものであつてみれば、これらすべてを包括して一様に現在差し迫つた損害であるとは到底いえない。のみならず右のように一年先、二年先に発生する被害は、その段階において不法行為等を理由に直接救済をはかることが可能であつて、現段階においてこれらすべての損害を避けるために本件処分の効力を停止すべき緊急性など認めうる余地のないものである。
第五、本件執行停止の申立が認容されれば、公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがある。
一、電気事業の公益性、必要性について
電気は国民の日常生活に必要不可欠な大きな役割を果し、そのほかあらゆる産業活動に欠くことのできない基礎的エネルギーである。
もし、電気の供給がなおざりにされれば、日常生活に必要不可欠な家庭用の電化機器・照明器およびガス・水道の供給が停止されるとともに、交通機関・医療施設・報道・通信機関の機能が混乱して、社会不安を招来する。さらに、電気の使用が不可欠な鉄鋼・紙パルプ・アルミニウム・石炭などの基幹産業、そのほかのあらゆる産業が活動を停止し、ひいては国民経済を破壊することになり、公共の福祉にはかり知れない影響をおよぼすのである。北電は、北海道一円に電気を供給することを目的として設立された一般電気事業を営む会社である(電気事業法二条)。このような電気事業の高度の公益性にかんがみ、電気事業者には、営利目的の一般私企業と著しく異なる法律上の制約が課されている。たとえば、取引きの相手方を選択する自由を持たず、供給区域における一般の需要に常に応じなければならない供給義務を課され、(同法一八条)、しかも良質の電気を恒常的に供給しなければならない(同法二六条)ものとされている。
そして電気事業者は、将来の電力需要を予測し、常に安定した電力を供給すべき責務を負わされている。
このため、事故・渇水・急激な需要変動等の予測できない異常事態の発生があつても、常に安定した供給を維持できる供給予備設備(供給予備力)の保有が必要であり、この予備設備を含めた新電源の確保のため、発電所の建設が必要となつてくる。
二、伊達火発建設の必要性について
(一) 電気事業は、大規模な設備を必要とするいわゆる設備産業であるから、一つの発電所を建設するためには、調査および準備に二年ないし三年、さらに建設工事に三年ないし五年を必要とする。
したがつて、北電を含む一般電気事業者は、毎年向う一〇年間の電力需要を想定し、これをもとに電力長期計画を策定している。
この長期計画は、電気事業者が毎年度必らず通商産業大臣に届出をしなければならない電力施設計画(電気事業法二九条)の基礎となり、さらにこの施設計画が国の策定する電源開発基本計画(電源開発促進法三条)の基本資料となる。伊達火発の建設計画は、昭和四四年度の電力長期計画以来毎年計画地点の一つにとりあげられ、慎重に検討されてきたものである。
(二) 昭和四〇年度における北海道の電力需要は、約一〇〇万キロワットであつたが、昭和四六年度には約一六〇万キロワットに増加した。この原因は、道民の生活水準の向上による家庭用電気利用の多様化、高度化、ビル・事務所の新増設のほか、産業活動の活発化によつて増加したものである。
このような需要増の傾向と、昭和四六年から昭和五五年を計画期間として、昭和四五年七月閣議決定された、北海道全体のあるべき総合開発の基本となる第三期北海道総合開発計画の進展に伴つて、北海道における将来の電力需要は、ますます増加の一途をたどることが明らかである。
北電が、右の事業を把握したうえ、昭和四六年度に策定した電力長期計画によると、同年度から昭和五五年度までの北海道の電力需要の伸び率は、年平均約八パーセントと想定されるから、この割合で需要が増えてゆけば、今後十年間で現在の電力需要(約一六〇万キロワット)の二倍以上に達することとなる。
この需要増に対処するには、現在の供給設備(約二〇〇万キロワット)では当然不足となるから、昭和五五年までに二六一万キロワットの電源開発をしなければならない。
伊達火発の建設は、この電源開発の一部として行なわれるもので、昭和四九年以降の電力需要増に対処するものである。
(三) 西胆振地区は、現在約三〇万キロワットにおよぶ電力需要がある。北海道全体の現在の電力需要は、一六〇万キロワットであるから、北電の電気供給区域の中でも電力大消費地区の一つということができる。しかも西胆振地区においては、家庭用電気の需要が漸増しているうえ、昭和三九年に新産業都市に指定された伊達市の産業開発に伴う電力確保の必要があること、現に重化学工業都市である室蘭市の産業用電力の需要が増えていることなどの情勢からみると、およそ一〇年後には現在の電力需要の二倍以上である六〇万ないし七〇万キロワットの需要規模になることが見込まれている。
ところが、同地区には、従来から電源(発電所)がほとんどなく石狩川周辺の遠隔地に点在する石炭火力発電所および日高方面の水力発電所からの送電に依存している。そのため、送電線に事故が発生した場合、同地区は停電・電圧降下などにより、電力の供給に重大な支障をきたすことになる。
また遠隔地から送電すると、送電線の末端にいくにしたがつて電圧が低下すること、電力損失が大きくなること、大量の送電線および変電設備を必要とすることから、送電コストも当然に高くなることなどの欠点がでる。
伊達火発は、西胆振地区におけるこのような欠点を解消させるためにも同地区に建設されなければならない。
(四) 電気は、生産と消費が同時に行なわれ、しかも貯蔵できないという特性を持つているので、前述のとおり、事故・渇水・急激な需要変動などの異常事態が発生しても、供給支障が生じないよう、実際の需要以上にあらかじめ供給予備力を持つ必要がある。
北電が常に確保しなければならない供給予備力(供給予備率)は、過去の実績に基づく統計数値に照らして、電力実要量のほぼ一五パーセント(これを適正供給予備率という。)に相当する。
伊達火発が建設されれば、昭和四九年以降右の適正供給予備率が保たれるのであるが、かりにこれが建設されなければ、供給予備率は昭和四九年には六ないし七パーセントとなり、昭和五〇年にはわずか二ないし三パーセント台にまで急落して異常事態が発生した場合、電力制限をしなければならなくなる。
三、本件埋立の必要性
(一) 本件埋立は、伊達火発の建設及び操業に必要不可欠な取水口・取水路・物揚場・荷置場等の施設用地造成のため行なわれるものである。
(二) 火力発電所は、多数のしかも巨大な機材を必要とする。伊達火発の建設において輸送・搬入される機材は、タービン関係をはじめ数十種類、総重量にして約一万五、〇〇〇トンにも達する。そのうちには、タービン低圧外部ケーシング(四〇トン)、タービン低圧ローター(四二トン)、給水加熱器(七四トン)等の重量物のほか、ドラム(一七五トン)、発電機ステーター(二三〇トン)、変圧器(二六〇トン)等の超重量物が含まれており、その大きさも、右タービン低圧外部ケーシングについてみても長さ・巾・高さは、それぞれ8.5メートル、5.5メートル、2.6メートル、にも達し、発電機ステーターについては同8.4メートル、4.8メートル、4.4メートル、変圧器にいたつては同八メートル、五メートル、六メートルにも達する巨大物件である。しかも、右重量機材は、その構造・工作精度等の点から分解して輸送することは不可能である。
ところで右重量機材を含む主要機材は、いずれも道外から伊達火発建設現場まで輸送されるものであるが、そのすべてを鉄道又はトレーラー等を利用して陸上輸送することは全く不可能である。鉄道による輸送は、貨車・線路等の構造又は強度の点から不可能であり(ちなみに、現在使用されている最大の貨車は、その積載量は一〇〇トン、積載可能な大きさは長さ・巾・高さそれぞれ二八メートル、2.3メートル、三メートルである。)トレーラーによる輸送についてみても、道路・橋梁等の構造又は強度の点から同様不可能であるので、海上輸送によるとしても、既存の港湾施設を利用するかぎり、荷揚港から建設地点までの輸送は不可能である。
従つて、伊達火発建設に必要な右主要機材の輸送については、直接建設地点への海上輸送の方法に頼らざるを得ず、このために伊達火発現場直近における陸揚げ施設の設置が不可欠となる。
(三) つぎに、周知のとおり火力発電所における発電は、ボイラーで発生させた蒸気をタービンの羽根に吹きつけて回転させ、これに直結する発電機を作動させることによつて行なわれるが、羽根を回転させた後の蒸気は復水器(蒸気を水とする装置)によつて冷却されて水となり、ボイラーに戻つて再び加熱されて蒸気となつて前同様の過程をたどるものである。
ところで、右復水器で蒸気を冷却させるためには冷却用の水(冷却水という)が必要となるが、伊達火発では、右冷却水として毎秒二二立方メートルの海水を取水する必要がある。かように、火力発電所にとつて冷却水は絶対不可欠なものであり、本件埋立は、まさに伊達火発にとつて絶体不可欠な冷却用海水の取水口及び取水路を設置する用地を造成することを目的としているのである。
(四) 以上述べたことからも明らかなとおり、本件埋立なしには、伊達火発の建設はありえないといつても過言ではない。
四、本件執行停止が公共の福祉におよぼす影響について
伊達火発建設の公益性・必要性および本件埋立の必要性は、すでに詳述したとおりであつて、かりに本件処分の効力の執行停止が認められるとすれば、それが公共の福祉におよぼす影響は、はかり知れないものがある。
本件埋立免許処分の効力の執行停止は、単に埋立工事の停止にとどまらず、伊達火発の建設そのものの停止という波及効果を生ずる。
かくては、西胆振地区における電力需要上はもとより、北海道全体における電力需要に対しても重大な支障をもたらすといわざるを得ず、まさに公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあるものであつて、到底認容されるべきものではない。
申立人らの昭和四八年八月三一日付反論書の要旨<省略>
〃 昭和四八年九月一七日付申立補充書の要旨<省略>
〃 昭和四八年一〇月二九日付申立再補充書の要旨<省略>
〃 昭和四八年一一月一日付申立補充書(第三)の要旨<省略>
被申立人の昭和四八年一一月二日付補充意見書((二))の要旨<省略>
参加人の昭和四八年一一月八日付意見書の要旨<省略>
被申立人の昭和四八年一一月二四日付補充意見書(三)の要旨<省略>
〃 昭和四八年一二月五日付補充意見書(四)の要旨<省略>
参加人の昭和四八年一二月一二日付補充意見書の要旨<省略>
申立人の昭和四八年一二月二一日付補充申立書(第四)の要旨<省略>